排尿困難感や痛みが3か月以上続く「慢性前立腺炎」とは?
膀胱のすぐ下にあり、精子への栄養供給、pHの調整、精液の濃縮などを行う器官が「前立腺」です。 この前立腺に炎症が起こった状態が前立腺炎であり、急性前立腺炎と、3カ月以上症状が続く慢性前立腺炎に分けられます。
急性前立腺炎のほとんどは細菌感染を原因としますが、一方の慢性前立腺炎ではほとんどが原因を特定できません(細菌感染を原因とするものが約1割)。
排尿困難、排尿時痛、陰部の痛み、頻尿などの症状を伴い、35~50歳くらいの男性に好発するとされていますが、中年以降でも発症することはあります。
ストレスやデスクワークでも?慢性前立腺炎の原因
慢性前立腺炎のうちの約1割は、細菌感染を原因として発症します。しかしそれ以外の多くの症例では、はっきりとした原因が特定できません。
現在のところ、長時間の坐位や自転車などの圧迫に伴う前立腺への刺激や血流障害 、尿の逆流、骨盤周辺の知覚過敏、ホルモンの分泌以上、免疫異常などが発症に影響しているのではないか、と考えられています。
また、ストレスや長時間のデスクワーク、過労、飲酒、喫煙、カレーなど辛い物の摂取などは、慢性前立腺炎の症状を悪化させると言われています。
痛みだけではない前立腺炎の症状
- 排尿困難、頻尿
- 排尿時の痛み
- 陰部、下腹部の痛み・不快感
- 下肢の痛み、しびれ
- 血尿、残尿感
- 勃起時の痛み
- 排尿時、射精時の痛み
上記のように、症状は多岐にわたります。
坐位で増悪する会陰部、股関節付け根の痛み、排尿時痛などの異常を感じたら、年齢のせいと決めつけず、早めにご相談ください。
慢性前立腺炎の検査と診断
NIH慢性前立腺炎症状スコア(NIH-CPSI)
痛みや不快感、排尿の状態、QOL(生活の質)についてアンケート形式で調べるテストです。
スコアに応じて、軽度、中等度、重度と判定でき、痛みの場所やお困りのことを把握することができます。
尿検査
細菌感染が疑われる場合には、尿検査を行います。
残尿測定
排尿後、膀胱に超音波を当てて、残っている尿の量を測定します。
直腸診
前立腺の腫れなどを調べる検査です。医師が手袋をはめて、指を使って直腸から前立腺の状態(特に圧痛があるかどうか)またマッサージ後の症状の変化を調べます。
造影剤を使用したMRI
点滴を取って造影剤を入れながらMRIを撮像します。
慢性前立腺炎の方は炎症を反映して、早いタイミングで造影剤が炎症のある場所に集積します。
治療
治療では、生活習慣の改善と薬物療法が中心となりますが、それでも中々よくならないという方にはカテーテルによる治療が必要になります。
生活習慣の改善
ストレス、長時間のデスクワーク、過労、飲酒、喫煙は、慢性前立腺炎を悪化させます。これらをできる限り取り除き、食事・運動習慣に気をつけた規則正しい生活を送りましょう。
自転車やバイクでの長距離移動も、できる限り避けましょう。30分に一度は立ったり、座る際円座のクッションなどを前立腺への刺激を減らしましょう。
クッションはご自身にあった硬さがあるので、複数のクッションを試す必要があります。
薬物療法
排尿状態を改善するα1ブロッカー、鎮痛薬、抗生物質等を使った治療を行います。
神経性疼痛への効果が期待できるプレガバリンや抗うつ薬、その他漢方を使用することもあります。
カテーテル治療
前立腺炎に伴い炎症血管が生じている場合には、カテーテル治療が有効です。動脈にカテーテルを挿入し、イミペネム・シラスタチンという塞栓物質/抗生剤を炎症を起こした血管に注入することで、炎症と痛みの緩和が期待できます。
術前のMRIではっきりと炎症が確認される方に関しては85%の方で症状の改善が期待できますが、反対に炎症がはっきりしない場合は40%程度の方に症状の改善が見られます。 治療時間は20分~60分程度で術後1時間安静し、帰宅可能です。
※カテーテル治療は完全自費診療になりますが、医療行為の区分としては「手術」にあたります。そのため医療保険に加入されている方であれば、加入された保険のタイプによっては給付金が受け取れることがあります。詳細は加入されている保険会社の相談窓口などでお問い合わせください。
治るまでどれぐらいかかる?治らないこともある?
慢性前立腺炎の症状が出始めてからすぐに適切な治療を受けられれば、6週間以内に約半数の症例で症状が改善または消失します。
当院では既存の治療では症状の改善に乏しい難治性の慢性前立腺炎に方に対して、カテーテル治療を積極的に行っています。
カテーテル治療は即効性のある治療ではなく、3週間~3か月程度で徐々に効果を実感する治療となります。段階的に改善する方がほとんどなので、6週間~3か月後に2回目のカテーテル治療を行うことをお勧めします。
治療中にやってはいけないことはある?生活上の注意点
コーヒーなぜよくない?注意すべき食べ物とは
治療中は、コーヒーや紅茶などのカフェインを含む食品、唐辛子やワサビなどの膀胱粘膜を刺激する食品の摂り過ぎはお控えください。
カフェインには利尿作用があり、頻尿の原因となります。
ストレッチや運動をして長時間の座位をさける
デスクワーク、自転車・バイクなどによる長時間の座位は、会陰部に負担がかかり、症状を悪化させるおそれがあります。自転車・バイクなどを趣味で楽しんでいる方もいらっしゃいますが、少なくとも治療中はできる限り控えましょう。
デスクワークをする場合も、30分に一度は立ち上がってストレッチをしたり、近くを歩いたりして、会陰部を圧迫から解放するようにしてください。
治療中の性行為について
クラミジアなどの細菌感染でない限り、治療中に性行為をすることに問題はありません。
細菌感染が原因である場合には、医師から許可を得てから再開するようにしてください。